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千葉地方裁判所 昭和38年(ワ)257号 判決

原告 能勢正幸

右訴訟代理人弁護士 佐々野虎一

被告 小島睦夫

被告 新味正美

右両名訴訟代理人弁護士 亀山脩平

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、原告主張の土地が、元、訴外小島清次郎の所有であつたこと、及び同訴外人が原告主張の日に死亡したことは、当事者間に争がなく、而して、≪証拠省略≫によると、被告小島睦夫外五名の者が右訴外清次郎の相続人であることが認められる。

二、而して、≪証拠省略≫によると、原告新味正美は、昭和三六年九月中、右訴外清次郎から、その代理人として、前記土地を他に売却処分方を委託され、同訴外人死亡後は、その相続人全員から、同様の委託を受けて居たことが認められ、この認定を動かすに足りる証拠は全くない。

三、然るところ、≪証拠省略≫を綜合すると、右被告新味は、右委託の要旨に従つて、前記土地の買受人を物色中、訴外窪田熊吉外一、二名の者の仲介によつて、原告が、その買受の希望を有することを知り、原告の代理人である訴外能勢石松と交渉した結果、前記訴外清次郎の死亡後である昭和三七年二月五日に至り、原告の代理人である右訴外能勢石松との間に於て、右土地の売買契約が成立に至つたこと、及び同日右被告新味が、右訴外能勢から、手附金三、〇〇〇、〇〇〇円及び仲介人に交付すべき仲介手数料金一〇〇、〇〇〇円、合計金三、一〇〇、〇〇〇円を受領したことが認められ、≪証拠の認否省略≫而して、右被告本人の供述と被告本人小島睦夫の供述とによると、右被告新味は、右売買契約の締結に際し、右土地の登記上の所有名義人が右訴外清次郎であつた為め、同訴外人が既に死亡して居たものであるに拘らず、登記手続を為す便宜上、同訴外人の代理人であると称し、その相続人等の代理人であることは、之を表示しないままで、右売買契約を締結したものであること、及びその受領した手附金三、〇〇〇、〇〇〇円は、被告小島睦夫に、仲介手数料金一〇〇、〇〇〇円は、訴外窪田熊吉に、夫々、之を交付したものであることが認められ、この認定を動かすに足りる証拠はない。

四、而して、双方提出の全証拠を綜合検討して、考察すると、本件に於て、認定し得るところの事実は、右認定の範囲を出ないものであると認められるこころ、右認定の事実によつて、之を観ると、右被告新味の右所為が、不法行為となるところの詐欺行為であること、若くは右売買契約が、公序良俗違反のそれであることは、共に、之を否定せざるを得ないところであり、而して、被告等各本人の供述によると、被告小島は、右売買契約の締結については、被告新味に、一切を委任して居たことが認められるので、被告両名が、共謀して、原告主張の詐欺による不法行為を為した事実のあることは、之を否定せざるを得ないところであるから、この点に関する原告の主張は、理由がなく、又、右売買契約が公序良俗違反のそれであることが否定される以上、右売買契約が公序良俗違反のそれであつて無効のものであることは、之を否定せざるを得ないものであるから、原告のこの点に関する主張も亦理由がなく、従つて、残る問題は、前記被告新味が死者である訴外清次郎の代理人として為した前記売買契約が無効のそれであるか否かと云ふ点に帰着するので、この点について、審按するに、前記認定の右被告新味が有した右訴外人を代理する権限は、同訴外人の死亡によつて消滅に帰したものであるところ、前記認定の事実によると、右訴外人の相続人等は、同訴外人と同様に、右被告新味に、右相続人等を代理して、同相続人等が承継取得した前記土地を他に売却処分することを委託し、右被告新味は、之に基いて、右相続人等の為めに、右売買契約を締結するに至つたものであるが、右土地の登記名義人が右訴外清次郎となつて居たので、登記手続を為す便宜上、同訴外人の代理人と称して、右売買契約の締結を為したものであることが明かであるから、その実質上の本人は、右相続人等であると云ふことの出来るものであり、而も、その本人たる右相続人等は、当初から、右売買契約の効果が、同人等に帰属することを承認して居たものであるから、その被相続人である前記訴外清次郎の氏名は、その実質に於て、その被相続人等全員一体として表示するところの名称であつたと認めるのが相当であると云ふべく、従つて、右訴外清次郎の代理人と称したことは、その実質に於て、右相続人等の代理人と称したことに外ならないことになるものであるから、右売買契約は、結局に於て、右相続人等全員と原告との間に、適法且有効に成立したことになるものであると判定し得るものであり、而して、右の様な解釈を為すことが妥当を欠くものであるとするならば、本人の生存中代理権の授与を受けた者が、その本人の死亡後、その代理人として行為を為したときは、その相続人に対する関係に於て、一種の無権代理関係が生ずるものであると解し得られるので、その相続人は、右代理人の為した行為を追認し得るものであると云ふべく、然るところ、その後、右相続人等が、原告に対し、右売買契約を解除する旨の意思表示を為したことは当事者間に争がなく、而して、右意思表示は、証拠調の結果によると、相続人等が前記契約を承認し、その特約に基いて、之を為したものであることが認められるので、その意思表示には、本人たる訴外清次郎の相続人等の追認の意思表示が包含されて居るものであると解するのが相当であると云ふべく、従つて、右売買契約は、右意思表示によつて、本人たる右相続人等に対し、その効力が生じ、それと同時に、その解除が為されたものであると認め得るので、右売買契約は、解除されたとは云へ、その直前に於て、一旦は、原告と右相続人等との間に於て、適法且有効にその効力を生じたものであると云はざるを得ないものであるから、右売買契約は、結局、有効なそれであると云はざるを得ないものであり、然る以上、売買契約が本人の不存在によつて無効である旨の原告の主張も亦理由がないことに帰着する。

五、然る以上、原告は、その主張の理由を以てしては、被告等に対し、本訴請求金員の支払を求め得ないものであると云はざるを得ないものであるから、原告の本訴請求は、失当として棄却されることを免れ得ないものである。

六、仍て、原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 田中正一)

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